ある酒場から 1

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 欲しかったものが金にせよ、名誉にせよ、あるいは、その両方であるにせよ、負ければ何も無くなるゲームである。敗者はみじめだが、負けるのが悪い。憐れむ他者はない。だが、逆恨みする当事者はある。 「こんなことがあるか!イカサマだろう!詐欺だろう!」 突然に、汚く口髭を生やした敗者がカウンターを叩いて喚き立てた。髪もマントも埃にまみれ、酒と煙草と火薬と土の臭いをまき散らす、どこから見ても旅人であった。 「俺は、はるか西、暗闇の森を抜けてここまで生き抜いてきた冒険者だぞ!北はゲ・ト・シュツィオの先、魔獣どもの海から、南はラーメの大火山まで旅をして来た男だ!あの"切り裂き(・・・・)デルーガ"も、この俺が突き出した!!」 観客を味方につけんと思ってか、派手な身振り手振りを加えて語る旅人に、ひとりの客が迂闊にこたえた。この客は先ほどのゲームで、旅人が勝つ方に賭けていた中年男である。一度は諦めた金であったが、もしもイカサマならば返ってくるかと思って、急に惜しくなったのであろう。 「切り裂きデルーガと言ったら、あの高額賞金首じゃないか!」 「おお、知っているか!」     
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