6人が本棚に入れています
本棚に追加
欲しかったものが金にせよ、名誉にせよ、あるいは、その両方であるにせよ、負ければ何も無くなるゲームである。敗者はみじめだが、負けるのが悪い。憐れむ他者はない。だが、逆恨みする当事者はある。
「こんなことがあるか!イカサマだろう!詐欺だろう!」
突然に、汚く口髭を生やした敗者がカウンターを叩いて喚き立てた。髪もマントも埃にまみれ、酒と煙草と火薬と土の臭いをまき散らす、どこから見ても旅人であった。
「俺は、はるか西、暗闇の森を抜けてここまで生き抜いてきた冒険者だぞ!北はゲ・ト・シュツィオの先、魔獣どもの海から、南はラーメの大火山まで旅をして来た男だ!あの"切り裂きデルーガ"も、この俺が突き出した!!」
観客を味方につけんと思ってか、派手な身振り手振りを加えて語る旅人に、ひとりの客が迂闊にこたえた。この客は先ほどのゲームで、旅人が勝つ方に賭けていた中年男である。一度は諦めた金であったが、もしもイカサマならば返ってくるかと思って、急に惜しくなったのであろう。
「切り裂きデルーガと言ったら、あの高額賞金首じゃないか!」
「おお、知っているか!」
最初のコメントを投稿しよう!