6人が本棚に入れています
本棚に追加
得たりとばかりに中年の男に歩み寄る口髭の旅人は、胡散臭い笑顔を顔に貼り付けた。この中年男が本当に口髭の言うことを信じているかはともかくとして、口髭が出した賞金首の名が少なからず人々の好奇心を刺激したのは事実である。"切り裂きデルーガ"――この凶悪犯の名は、凄惨な事件のあらましとともによく知られていた。
元々腕利きの狩人であったデルーガという男は、西方の小さな田舎町の狩人であった。平和で長閑な村であったが、ある時期より付近の森に魔獣が出現するようになった。小型の、猪によく似た魔獣であったが、皮膚がかたく、並の人間の武器では歯が立たない。家畜や畑を荒らされた困り果てる住民たちのため、デルーガは、生来の魔力を修練により鉄の刃を生み出す魔法に変えて、その刃によって件の魔獣討伐に成功した。魔獣としては小物であっても退治の成功報酬は破格であった。しかも難敵に挑む高揚感たるや、当然、そこらの獣が及ぶべくもない。それからデルーガはすっかり他の獲物を狩るのをやめ、魔獣ばかりを求めるようになる。
村一番の狩人であったデルーガが獣を放置したために、魔獣被害はおさまったが、獣害は増え、肉も革も不足した。はじめは魔獣討伐を賛美しデルーガに感謝していた住民たちから、退屈で実入りも少ない獣狩りを要求されるようになり、すっかり増長していたデルーガは憤った。
最初のコメントを投稿しよう!