ある酒場から 1

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ある酒場から 1

 下卑た笑い声と罵声の中で、瞬間、鋭い発砲音とグラスが割れる音とが響いた。直後、歓声と、怒号と、それから一部では悲鳴のようなため息とが、一斉に湧き出た。街はずれの酒場には、まだ太陽も高いというのに大の男どもが集まって下らないゲームに熱狂していた。  近頃、流行している早撃ちゲームである。使用する道具は拳銃一丁、大きさの違ういくつかのグラスと度数の高いアルコール。魔法の使用は禁止されている。参加者はまずグラス一杯の酒を飲む、飲み干すと同時に後ろ手にグラスを投げる。瞬間、振り返って拳銃を撃つ。グラスが床に落ちる前に銃で撃てれば成功である。二回目以降はグラスが小さくなるのが慣例で、弾を外すまで酒とグラスと銃弾を無駄にする、馬鹿々々しい遊びであった。だいたい射撃の可否に参加者も見物人も金を賭け、上手く行けば一攫千金、射撃自慢の旅人が路銀を稼ぐにうってつけである。  参加人数には決まりがない。一人だったら射撃を外すか本人が辞退するまで、二人以上なら最後の一人になるまで勝負する。今日のゲームの参加者は、二人であった。     
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