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鈴城くんは、そのことをよく知っているはずで、それでも彼女を見る目はちっとも変わらない。
早くあきらめればいいのに。
あたしも。
となりで電車を待つ人は、嫌味に気がついたのか、なにも答えない。
気まずい空気のなか、なぜかやたらと視線だけを感じる。
ほんと、最近どうしたんだろ?
鈴城くんは夏海しか見つめないはずなのに。
「俺、高清水さんに言いたいことあったんだ」
「え?」
思わず彼の顔を見ると、いつも生まじめな表情が、さらにかたくなっていた。大きな目のなかに、あたしが映ってて、頬がほんのり赤くなっている。
それはとても不思議な表情で、緊張と興奮がまじったよう。こんな鈴城くんを見るのははじめてだ。
「つきあってもらえない?」
「どこに?」
我ながら、まぬけな返しだったと思う。
鈴城くんはプッと笑って、ちょっと目をそらし、片手で口もとをおおった。それから、ますます赤い顔して、視線をもどす。
「そういう意味じゃなくて。俺とつきあって、って言ってるんだけど」
「え、なんで?」
意味がわからない。
夏海をあせらせるために、偽装恋人になってとか、そういうこと?
「なんでって、その……好きだから」
「は? 誰のこといってるの?」
「俺が好きなの! 高清水さんのことが!」
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