第15章 わたしの前にだけ開かれた扉

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寒さに反応するのは猫たちだけじゃない。 猫団子を目にするほど気温が低い時には、大抵彼から遠慮がちに声がかけられる。そのことがわかってから予兆を感じると何となく心の中で気持ちの準備をするというか、身構えるようになった。 「実生。…今、大丈夫?いい?」 嫌だったらちゃんとそう言って、と頼まれるのだが無論そう感じた試しはない。だからいつも素直にその腕の中におさまる。心臓がばくばくするのが伝わっちゃうな、とは思うけどどうしようもない。 気後れか野生の動物みたいな警戒心からだと解釈してくれ、と願うしかない。 向こうの動悸がどうなのかはいつも今ひとつわからない。自分の音が凄すぎて、それに紛れてしまってるのかも。多分わたしも見た目ほど冷静に対処できてないんだと思う。 いつもいっぱいいっぱいで、終わってから彼はどんな様子だったっけ、とか、どんな気持ちだったんだろ、わたしのことどう思ってるの?とか遅ればせながら焦れったく考えたりする。腕の中にいる時に頑張って探りを入れてみればいいのに。 その時はああ、わたし今エニシダさんに抱きしめられてるんだって思うと。それだけでもう、何も考えられなくて感極まっちゃう…。 彼は抱き合っている最中はいつも何も言わない。     
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