第15章 わたしの前にだけ開かれた扉

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猫たちの仕草と基本同じ。無表情で(多分。腕の中にいる時はこっちには顔は見えてないけど)真剣にぎゅうっと力を込めて、お互いの体温をしっかり味わおうといった風だ。性的な箇所に関心を示したりはしない。だからそういう意味で危機感を感じることはない。 気になるのはそこじゃない。こうしてる時彼はどんな気持ちなんだろうとか。抱きしめたい、わたしと触れ合いたいって少しでも思ってくれてるのかなとか。性欲からじゃなくていいから、わたし個人を求めてくれてるって思いたい。 だけど猫と一緒で、単にそこに体温のある温かい身体があるから。それを利用して暖をとるのに使おうっていう合理的な意図しかないのかも…。 「そうは言いますけどね。猫だって人間が考えてるよりずっと、相手が誰かを見てるというか。余程親しくて気を許してる仲じゃないと猫団子だって作れないし。そこまで接近するには彼らなりにハードルがちゃんとあるんですよ」 「あ、そうなんですね」 獣医さんと話してる時にふと、猫は暖をとるためならとにかく手近なもの同士相手構わずくっつくことができるんだろうけど、みたいなことをつい口にしたら耳ざとく咎められた。でも考えてみたらそりゃそうか。 「本来野生ならテリトリーとかあるんですもんね。仲間とか身内って思ってないと、そもそもそこまで近づくこともないのか」     
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