第15章 わたしの前にだけ開かれた扉

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「飼われてる猫同士だったら血縁なくても家族同然になるから、仲良くくっつくことも多いけど。それでもそれぞれ相性とか好みもあるし。言うほど人間と変わらないよ、誰とでも親密な距離になれるわけじゃない」 なるほど。 わたしは漠然と感じ入った。そしたらやっぱり、エニシダさんだって手近でそこそこ好ましいなら誰だっていいってこともないのかな。いろんな意味で猫の生態に近い人だし。 わたしには他の人より、気を許してくれてるって解釈してもそんなに自惚れってほどでもないのかも…。 何回かそんな葛藤混じりの経験を経てから、次第にそこまで焦る必要はない、抱きしめられたからってすぐ次の展開があるってわけじゃないってことがわたしにも飲み込めてきた。以降はそれほど頭に血も昇らないで、最中にも少しずつ落ち着いてものが考えられるようになった。 かっかと頬を火照らせたり周りの音が聴こえなくなるほど心臓を高鳴らせたりする必要はない。それより自分も、エニシダさんの穏やかな体温をしばしの間楽しめばいいんだと思う。 ある日、ソファで並んで彼の腕に抱きしめられて目を閉じその感触をうっとり味わっている時に、不意に頭の上から微妙に不満げな声がぼそりと降ってきた。 「実生ってさ。…自分からは絶対、持ちかけてこないよね。寒いからあっためてほしいとかさ」 思ってもみない方向からの砲撃に、わたしは思わず跳ね上がりそうになった。…いえいえ。     
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