第15章 わたしの前にだけ開かれた扉

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彼の内面の気分や調子を読めずに自分の方から申し出て、気まずい空気になったり微妙な顔をされたりしたらと思うと。そんな勇気は全然ない。それくらいなら受け身に徹して、彼が必要な時にわたしを求めてくれたら対応するってことでこっちは問題ない。 そう説明すると、エニシダさんは何とも言えない表情を浮かべて黙り込んだ。不満、というか。渋いと表現できなくもない顔。 相変わらず一般的にいうと薄っすらとした反応だけど、わたしにはもうひしひしと伝わってくるものがある。この人の感情の表出のやり方にいつの間にかすっかり慣れた。 「そんなこと。…全然、気を回す必要ないのに。実生が寒いって感じた時に僕も君をあっためてあげたい。そう思っただけだよ。それとも、ほんとは僕に言われるのも迷惑?内心ではしたくないのにしてるから、そっちからは要望しないってこと?」 なんか、拗ねてるみたい。案外めんどくさい人だ。わたしは慌てて彼を宥め、腕を伸ばして背中を優しく撫でた。 「絶対そんなことない。エニシダさんとこうしてるの、好きだよ。でも、…なんか。こっちから言い出してえ?って顔されたらどうしようって。考えちゃうと…。勇気がないの」 「絶対そんなことないのに。意味がわかんないよ」 声はやっぱり拗ねてる。だけどその両腕は言葉とは裏腹にぎゅっ、と力を込めてわたしを強く抱きすくめた。ちょっと…、これはこれで。どぎまぎする、かも。 少し怒ったような、ぶっきらぼうな声。     
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