胡瓜嫌い

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胡瓜嫌い

 親戚から大量の胡瓜をもらい、家だけではさすがに食べきれないと、ご近所にお裾分けをして回った。  概ね喜んでもらってくれたのだが、一軒だけ、うちでは食べないからと断られた。  嫌いなら仕方がないと引き下がったが、帰り際、分けようとした胡瓜を一本、その家の玄関先で落としてしまった。  その途端。  転がった胡瓜にどこからともなく転がって来た小枝が刺さり、四本刺さったところで胡瓜が立ち上がったのだ。  何事かと固まる私の横で、家の奥さんが素早く動き、胡瓜から小枝を引き抜いた。 「もう。これだから胡瓜は! 帰ってなんか来させないんだから!」  側に私がいるのも構わず、吐き捨てるようにそう口走る奥さんに何も聞けず、私は持ち込んだ胡瓜を残らず持ってその家を後にした。  ご先祖様をお迎えしたり送ったりする時の乗り物として作る、胡瓜と茄子の精霊馬。胡瓜は足の速い馬に見立てられ、迅速にご先祖様に帰って来てもらうための品だと言われている。  さっきの光景を見る限り、あの家は、何か、霊に帰って来て欲しくない事情があるのだろう。  枝が刺さって胡瓜が立ち上がるところを見てしまった以上、決して首は突っ込まない。  当たり障りなくほどほどの付き合い。それがご近所同士ってものよね。 胡瓜嫌い…完
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