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青い月が浮かんでいます。だから今日、死にたいと思います。
妻がいました。人々に月に例えられるほど、淑やかで美しい妻でした。私にはもったいないほどの、とても美しい妻でした。
妻は料理が苦手でした。火を扱えば食べ物を焦がし、包丁を扱えば危なっかしくて見ていられませんでした。そんな妻の唯一の得意料理は卵焼きでした。砂糖をたっぷり、塩を少々入れる、とても甘い卵焼きでした。妻は私に弁当を持たせるとき、ご飯の他にはこの卵焼きをたっぷりと詰めたものを渡してくれていました。私はお昼時、それを開けるのがとても楽しみでした。弁当箱を空にして持って帰ると嬉しそうに笑う笑顔が、とても美しい妻でした。
妻と私には子供がいませんでした。妻が昔病気をしたとき、子供ができない体になったと言っていました。妻がいてさえくれれば構わないと、私は言いました。子供がいなくとも、妻が私の傍にいてさえくれればと、私は言いました。申し訳なさそうに、そしてどこか寂しそうに笑う横顔も、とても美しい妻でした。
妻が病気になったのは、私が五十の後半になった時でした。お互いしわもシミも増え、髪は薄く白くなり、それでも妻は美しい妻のままでした。医師から余命を告げられた時、それでも妻は美しかったのです。
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