文化三年

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一日の仕事をようやく終え、あさぎは皆がごろ寝している端に空間を見つけ、横になる。音色の違う寝息を聞きながら目を閉じ、縹之介のことを想う。交わした会話を、頭の中で繰り返す。 縹之介は、ここに引き取られた時から、あさぎのことをずっと気にかけてくれた。彼の祖父が紺屋を建てる時の棟梁だったのもあり、家同士も仲良くしている。 「ほら、長命寺の桜餅」 それを食べての花見が流行っていた。見事な隅田川沿いの桜並木。先日も紺屋の主人の許可を得て、花見に連れて行ってくれた。彼の存在が、あさぎの支えだった。 その縹之介が纏持ちになる。紺屋の主人もさぞ心強いだろう。 彼は消し口を取るのが得意だ。つまり「ここで火を食い止めることができる」と見極める能力に長けているということだ。大きな商家は店の風上で消し口をとってもらうための賞金を払うこともあった。 あさぎはふと不安になる。暗闇の中で目を開けた。 自分の背丈よりも高い纏を持ち、馬簾をばさばさなびかせながら振り回す姿。隣の組の纏持ちが火にまかれたと聞いたことがある。それほど危険な仕事なのだ。 「どうして」 あさぎはぽろりと呟き、嫌な想像を振り払うためかぶりを振って目をぎゅっと閉じた。
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