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ヨウの路地
その路地は、心の中の秘かな闇のように、ヨウを魅了した。
F15戦闘機の3機編隊が、街の空気をプリンのように震わせて厚木基地を目指している。11月初旬だというのに、年末の寒さだ。
無意識に足が前に出て、ヨウは、自分の魂がすでに路地をのぞき込んでいることを知った。
ジェットエンジンは存分に吼え、満足して去った。奪われていた日常の音がもどり、箱庭のようだった街は現実に帰ったが、ヨウは路地に飲み込まれた。聳えるコンクリートの黒い盾を、曇天が白い剣のように裂いている。
10メートル進むと広場があった。強引な嵐が奥深く指を差し込まない限り、この場所の空気には誰もさわれないだろう。
広場の真ん中に、不吉な診察台のようにドラム缶が横たわっていた。空や雲や星々を除けば、鳥とF15戦闘機だけが、そのドラム缶のことを知っている。
路地は広場で終わっていた。ドラム缶は横向きで、側面4分の1を切り落とされていた。西部劇に出てくる飼葉桶のようだ。地面はやけに白く、正面には革製の、アールヌーボー調の、ズタズタに裂けた、痛々しいラブソファがあった。ドラム缶には水が深く張られている。
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