「宿命のあだ名」

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もなみは、やや冷たいお茶を女性客に差し出した。 「あら、ちょうどいい冷たさだわー。このあたり、冷房が効いてるし、少し乾燥気味だから・・・ちょうど飲みやすくてねぇ。そうそう、それで。このオプションが・・・なるほど、分かったわ!あなたに任せちゃう!」 もなみ 「まことにありがとうございます。ではお支払いのほうですが・・・無理なく、お支払いいただくために当店ではオリジナルの・・・」 そうこうするうちに、女性客は満足した表情で買い物を済ませていった。もちろん、もなみが少しずつ値段を底上げしていることに気付くことなく、かつ最終的な支払金額が一括で払うよりも多くなっていることにも気付かずに。 前橋 「能代、ごめん!助かった!」 もなみ 「いいわよ、同期のよしみだし。まあ、ああいうお客様ってけっこう大変だもんねぇ」 なんだかんだ言って、もなみの接客態度は25歳のそれとは思えない巧みさと緻密さがあり、月間のトップセールスを常に勝ち取っていた。 信濃町店の販売事業部でも、課長の熊谷修三(くまがやしゅうぞう)から期待されている上に、本部の経理課長、旭川和紗(あさひかわかずさ)がその接客を褒めたという。 だが、それゆえに同期や先輩からの妬みも相応にあるのである。
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