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「えー何これいいなぁ! 青木さんと喋れるとか最高じゃん!」
「応募してみたら?」
そのインタビューを受けられる一般人は、番組ホームページからの応募で集め、抽選で決定するようだ。
「えーどうせ当たんないっしょ。あたしってくじ運悪いしー」
「そうなの?」
「うん。ほら、あたしたちがまだ子供の頃さ、二人で夏祭り行ったじゃない? 覚えてない?」
「そういえば、行ったね」
あれは確か、蒼が小学二年生、藍子が小学六年生――そう、ちょうど両親が亡くなった年だ。
当時、親戚中で藍子と蒼の引き取り先を揉めていたとき、夏祭りに行っておいで、と親戚の叔父さんからお小遣いを渡された。今思えば、話し合いに子供は邪魔だったから、うまい言い訳で二人は追い出されたのだ。だが、当時、幼い二人にそんな大人の事情など分かるはずもなく。
藍子と蒼は手を繋いで、近所の夏祭りに行ったのだった。
「蒼がさ、屋台にあったくまのぬいぐるみが欲しいって言ってさ〜」
「そうだっけ? 全然覚えてない」
「うん、そうだよー。でもその屋台、くじだったんだよね。あたし、もらったお小遣い全額賭けたのに、当たらなくって。手元に残ったのは、残念賞のシールが数枚。あれは、悲しかったなー」
藍子は、少し寂しげに微笑んだ。そして、こう続けた。
「あぁ……神様は、両親を失くした不運な姉弟にすら、情けをかけてくれないのかーって」
「……子供なのに、深いこと考えるね」
「だって蒼がさー『シールでも僕は嬉しいよ! お姉ちゃん!』って泣きそうなの必死にこらえて私のこと励ますんだもん。なんか、虚しーじゃん」
――あぁ、そうだ。
蒼の脳内に記憶が掠めた。当時の自分が欲しかったそのくまのぬいぐるみこそ思い出せなかったが、手の中にあるシール数枚で、藍子を必死に励ましたのだ。
――そう、そのとき自分が泣きそうだったのは、他でもない、藍子が泣きそうな顔をしていたからだ。
姉を、泣かせなくなった。姉に、笑顔になってほしくて、幼い自分は、必死に、ただ必死に、姉を励ましたのだ。自身の無力に落ち込む姉に――ただ、笑ってほしくて。
あの――姉の何かを堪えるような横顔。
蒼はぎゅっと拳を作った。
「――姉、さん」
「うん? 何?」
蒼は、藍子の瞳を真っ直ぐと見据えた。
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