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 一時間ほど経って、藍子は目を覚ました。  目覚めたら、いつもの自分の家ではなく見知らぬ病院ということに、藍子はひどく驚いていた。蒼は熱中症で意識がなくなっていたから救急車を呼んだ、と説明した。 「そっか~。全くあたしってば本当、ダメだねぇ。あはは~。また蒼にも迷惑かけちゃって、ごめんね」  藍子はいつもの軽い調子で蒼に謝った。その姉の、なんというか、色んなものを軽んじるような態度を目の当たりにし、蒼の心は一瞬にして怒りに染まった。 「……うん」  蒼はぼそりと、小さな声で言った。 「え、どしたの? 怒ってる?」 「……怒ってない」  低いトーンで答える。 「いや、怒ってるでしょ。絶対」 「怒ってないって言ってるだろ!?」  蒼はガタッと椅子から立ち上がった。 「俺がどれだけ心配したと思ったんだよ! なぁ!? なんでそんな軽い謝罪で、色んなものをうやむやにしようとするんだよ」 「……っ」  急に怒りをあらわにした蒼に、藍子はたじろいだ。 「――ご、ごめん。あたし……」 「っ、ごめんじゃない! なんで姉さんはそうやっていつも自分を後回しにするんだよ! なんで自分を大切にできないんだよ! なんで俺がっ……心配してるって、分からないんだよ!? なんで自分の身体をないがしろにするんだよ!」  そこまで言い切って、蒼ははっと正気に戻った。まずい――と、口を押さえる。 「っ……ごめん。頭、冷やしてくる」  蒼はドアに向かって大股に歩いていく。 「蒼っ!」と、姉が呼ぶ声が背後から聞こえてきた。 「ナースコール押して、診察してもらってね」  ――それだけ言って、蒼は病室を出ていった。
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