7人が本棚に入れています
本棚に追加
一時間ほど経って、藍子は目を覚ました。
目覚めたら、いつもの自分の家ではなく見知らぬ病院ということに、藍子はひどく驚いていた。蒼は熱中症で意識がなくなっていたから救急車を呼んだ、と説明した。
「そっか~。全くあたしってば本当、ダメだねぇ。あはは~。また蒼にも迷惑かけちゃって、ごめんね」
藍子はいつもの軽い調子で蒼に謝った。その姉の、なんというか、色んなものを軽んじるような態度を目の当たりにし、蒼の心は一瞬にして怒りに染まった。
「……うん」
蒼はぼそりと、小さな声で言った。
「え、どしたの? 怒ってる?」
「……怒ってない」
低いトーンで答える。
「いや、怒ってるでしょ。絶対」
「怒ってないって言ってるだろ!?」
蒼はガタッと椅子から立ち上がった。
「俺がどれだけ心配したと思ったんだよ! なぁ!? なんでそんな軽い謝罪で、色んなものをうやむやにしようとするんだよ」
「……っ」
急に怒りをあらわにした蒼に、藍子はたじろいだ。
「――ご、ごめん。あたし……」
「っ、ごめんじゃない! なんで姉さんはそうやっていつも自分を後回しにするんだよ! なんで自分を大切にできないんだよ! なんで俺がっ……心配してるって、分からないんだよ!? なんで自分の身体をないがしろにするんだよ!」
そこまで言い切って、蒼ははっと正気に戻った。まずい――と、口を押さえる。
「っ……ごめん。頭、冷やしてくる」
蒼はドアに向かって大股に歩いていく。
「蒼っ!」と、姉が呼ぶ声が背後から聞こえてきた。
「ナースコール押して、診察してもらってね」
――それだけ言って、蒼は病室を出ていった。
最初のコメントを投稿しよう!