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二人が初めて出会ったのは、聖が勤めている会社に藍子が取材に訪れたことがきっかけだった。
当時、聖の会社では他社との合同プロジェクトを抱えていたため、その企画に藍子が目をつけて、たびたび取材にやってきていた。
聖自身は総務課の人間だったため、その合同プロジェクトに参加はしていなかった。が、ライターである藍子がよく来客用のカードを首からぶらさげて、社内をうろついているのは知っていた。
ある日、休憩中に飲み物を買おうと自販機コーナーにいくと、ちょうど藍子がオレンジジュース缶を購入し、ぐびぐびと飲んでいた。
こんにちは、と先に声をかけたのは聖だった。
藍子はまさか声をかけられるとは思わなかったのか、ジュース缶を口から離すと、
「あ、初めましてっ! ライターの田谷藍子です」
――と、忙しなく挨拶をした。
聖は、ずっと気になっていたことを口にした。
「ライターの仕事って、面白いんですか?」
藍子は目をぱちくりさせた後、白い歯を見せてニカッと笑った。とても眩しい笑顔だった。聖はどきりとした。
「面白いですよ! とっても」
彼女は続けた。
「私はフリーの人間なので、こういう企画に参加している会社員の方々の近くにいると、自分もこのチームの一員なんじゃないかって錯覚するんです。組織の一員だからこそ見える世界とか、価値観とか。それはフリーで活動する私には持ち合わせていない感性なので。新しいというか、自分とは異なる価値観や生き方が取材を通して垣間見える。それが面白いんです」
彼女はいきいきと語っていた。目をきらきらと輝かせて、純朴な子供のように。こんなに自分の仕事をまっすぐに愛していることが、聖には素直にすごいと思った。
それから二人は休憩室や自販機コーナーでたびたび顔を合わせるようになり、聖はその都度に彼女に色々と質問をした。彼女のような生き方や働き方をしている人物は、これまで聖の周りにはいなかったのだ。藍子の取材同様、聖もまた、藍子の価値観や働き方に対する想いについて聞き、新しい世界に遭遇し、固定概念が崩れて、自分の価値観が塗り替えられていくのが面白いと感じていた。それと同時に、藍子自身に対する興味も増していった。
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