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それから二人は社外でも会うようになった。先に誘ったのは聖の方だった。藍子も誘いに乗ってくれた。
そして五度目のデートのとき――そう、あれは映画を観たあと、二人でカフェで喋っているときだった――聖は藍子にこう告げた。
「藍子さん、よかったら僕と付き合ってくれませんか?」
藍子は、飲んでいたオレンジジュースを吹き出しそうになったのか、慌てて口を押さえた。
そんなに驚くようなことだろうか――と聖は疑問に思った。聖はもちろん、藍子にアプローチしているつもりだったし、なんとなく、藍子もそれを感じ取っていたんじゃないかと思っていたからだ。
「あのっ、えっ……それ、本気? ですか」
藍子はひどく動揺していた。
「――うん。本気です」
静かに、そしてはっきりと聖は答えた。
「あっ、そう、ですか……はぁ」
藍子は顔を横に向けた。顔から首にかけて、タコのように真っ赤に染まっている。
「あの……お恥ずかしい話なんですけど、私……こういう男性とのデートで、向こうも好意を持ってるだろうと思ったらあっちは完全に『友達』としか思ってないっていうパターンを何度も経験してて……今、ちょっと本気でびっくりしてます。すみません」
聖は微笑んだ。そんな過去も、今となっては可愛らしいものだった。
+++
二人の馴れ初めを語った聖は、最後にこう言った。
『彼女はさ、そうやって喜怒哀楽が分かりやすくて、見ていて、愛おしくなるんだ。とても。それにね――』
突然、ポケット内にあるスマホが突然震え出した。蒼はびくっと肩を震わせた。
着信だ。知らない番号からだった。疑問に思いながらも、蒼は電話に出るため、休憩室の向かいにある通話可能区域に移動した。
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