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――スマホが、鳴った。
藍子は着信に気づかないことが多いので、着信音は大音量にセットしている。あの日も、いつもと同じように、リンリンと煩い電子音がリビングに響き渡っていた。
前日の夜、シャワーを浴びそびれた藍子は、その日昼過ぎになって目を覚ますと、すぐにシャワーを浴びた。そう、シャワーを終え、いつものように風呂上がりのオレンジジュースを飲もうと、風呂場からリビングへと歩き始めたそのとき、スマホが鳴ったのだ。
仕事の電話だろうか、と思ってスマホを取り上げた。何故かそのとき、いつもは当たり前すぎて気にもかけない、スマホのひんやりとした感触を、藍子は手のひら、その指一本一本に、強く感じた。
知らない番号だった。しかし、仕事絡みで全くの初対面の人物から突然電話がかかってくることもよくあったので、藍子は不信に思うこともなく、ボタンを押して、電話に出た。
それが――全ての始まりだった。
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