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それからのことは、三年経った今でも、あまり、よく思い出せない。思い出せないというより、記憶がすっぽり抜け落ちてしまっているのだ。
蒼によれば、警察から聖が交通事故に遭った旨を聞いた藍子は、まず蒼に電話をしたそうだ。そして、すぐさま仕事を切り上げてマンションにすっ飛んできた蒼とともに、搬送先の病院へ向かった。
手術をする余地などなかった。聖はトラックに轢かれ、即死した。
霊安室で、聖の死体と対面した藍子は、全身から血を抜かれたのかと思うくらい、顔が真っ白だったという。泣きもせず、叫びもせず、ただじっと、ぴくりとも動かない聖の顔を、肩を僅かに震わせながら、瞳が飛び出そうなぐらい、凝視していたらしい。
蒼は蒼で、現実を受け止めきれず、頭が混乱していたというが、姉の様子をここまで仔細に記憶できているところが、普段、人付き合いが悪いくせに、大切な人のことになると目の色が変わる、あの家族思いの弟らしい、と藍子は感じていた。
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