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聖の死を受けて、藍子の中で変化が起きた。
まず、電話でのやりとりをいっさい辞めた事だ。
仕事関係のやりとりは全てメールで行うようになった。細々とした事務作業が苦手で、人と話すことが好きだった藍子にとって、メールでのやりとり、管理はなかなか面倒だったが、もうきっと一生、自分は電話に出ることはできないのだろう。あのリンリン、という着信音を耳にするだけで、思考も身体も硬直してしまうのだから。
また、一人で過ごしていると、何故か急に、涙がボロボロと溢れ出てくることがたびたび起きた。そもそも聖の死から、半年ほどは涙すら流せないほど疲弊していた。ただ、半年経ったある日をきっかけに、藍子は他に誰もいない、空間にひとりという条件に限って、涙を流せるようになった。泣けるようになったとは言っても、自分が何に対して泣いているのか、藍子本人さえもよく分からなかった。ただ、はらはらと両目から涙が流れていく。自分が泣いているのに、ひどく他人事のように感じられ、心が冷え冷えとしていくのだった。
そして、決定的だったのは――聖の話題をいっさい出さなくなったことだ。
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