三年前

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 蒼は聖が亡くなったあとも、定期的にマンションに足を運んでいた。むしろ、聖の生前のときよりも、その頻度は高くなった。それはもちろん、情けなく、だらしない、この、干からびたミイラみたいな姉を心配してのことだろう。  二十九にもなって、弟に心配と迷惑をかけ続けるなんて、姉としては失格だ。    でも、いつも思うのだ。じゃあどうやって立ち上がればいい? どうやったら、夫のあの、突然の死を、人間性を保ったまま、事実として、きちんと、頭ではなく、心で受け止められるというのだ。それが藍子には分からない。出口さえ分かれば、それに向かって立ち上がり、歩き出せるのに。  でも、そもそも出口ってなんだろう。『夫の死を受け入れる』――そのゴールとはそもそも何なのだろう。気兼ねなく聖の話題を自分から話せるということなのか。誰かの前で、涙を流せるということなのか。弟に、この暗中模索を繰り返す心中を、ありのまま打ち明けるということなのか。仏壇に向かい合ったときに、亡き夫に向けて、何か心の中で言葉を投げかけることなのか。  ――分からない。藍子には、ずっと、分からない。  幼い頃に両親を亡くしたときも、とても悲しい想いをした。けれどあのときは、こんなに頭の中でごちゃごちゃ考えることはなかった。悲しいと感じるとわんわん泣き、苦しいと感じると、弟にすがって抱き締めてもらった。もっと、心のままに感情を発散して、動いていたはずなのに、大人になった今、藍子の中の何かがそれを許してくれない。だからこんなに窮屈で、ちぐはぐになってしまう。
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