7人が本棚に入れています
本棚に追加
***
三十分経ち、医師から帰宅許可をもらうと、藍子は病院を出て、蒼に電話をかけた。自分から電話をかけるのは、久しぶりだった。いつもならメールで済ませるが、きちんと相手の声を聴いて、謝りたかった。
「――もしもし、姉さん?」
電話越しの弟の声は、上擦っていた。藍子が電話をかけたことに、ひどく驚いているようだ。
「うん。今、病院でた。とりあえず異常ないから帰っていいって」
――そっか、と蒼は答えた。安心した様子が、声だけでもよく伝わった。
「ごめん、最後までついてあげられなくて、ちょっと急用ができちゃって」
「ううん。こっちこそ、さっきは――ごめん。あたしの態度、よくなかったね」
「いいよ。俺も、興奮してなんかよく分からないまま喚き散らしちゃったし。ごめんな」
「ううん。いいの。あたしが悪かった」
――そのとき何故か急に、唐突に、聖と会話していた頃の記憶が、映像が、藍子の脳内を駆け抜けた。
そう――あれは聖と蒼が初めて顔を合わせたときのことだった。結婚相手として、唯一の家族である弟の蒼を、聖に紹介した。
最初のコメントを投稿しよう!