三年前

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***  三十分経ち、医師から帰宅許可をもらうと、藍子は病院を出て、蒼に電話をかけた。自分から電話をかけるのは、久しぶりだった。いつもならメールで済ませるが、きちんと相手の声を聴いて、謝りたかった。 「――もしもし、姉さん?」  電話越しの弟の声は、上擦っていた。藍子が電話をかけたことに、ひどく驚いているようだ。 「うん。今、病院でた。とりあえず異常ないから帰っていいって」  ――そっか、と蒼は答えた。安心した様子が、声だけでもよく伝わった。 「ごめん、最後までついてあげられなくて、ちょっと急用ができちゃって」 「ううん。こっちこそ、さっきは――ごめん。あたしの態度、よくなかったね」 「いいよ。俺も、興奮してなんかよく分からないまま喚き散らしちゃったし。ごめんな」 「ううん。いいの。あたしが悪かった」  ――そのとき何故か急に、唐突に、聖と会話していた頃の記憶が、映像が、藍子の脳内を駆け抜けた。    そう――あれは聖と蒼が初めて顔を合わせたときのことだった。結婚相手として、唯一の家族である弟の蒼を、聖に紹介した。
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