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 蒼には、仕事が休みの日に、欠かせない日課がある。それは、彼の好きな映画鑑賞ではなく、インドア気質だからと家でのんびり過ごすことでもなく、ましてや、人嫌いな彼が、誰かと街へ繰り出すことでも、ない。  それは―― 「(ねえ)さん! 起きて」 「う〜ん……あと、あと五分だけ」 「駄目だ。今すぐ起きて! ほら、手を貸すから」  蒼はソファの上に小さく縮こまって寝転んでいる(あい)()の腕を引っ張り上げ、彼女の上半身を無理やり起こした。  藍子は眠い目を擦りながら、大きなあくびをする。 「あーあ。まだ寝たかったのに」 「馬鹿っ! せっかく昼から来たと思ったら、ソファで寝てるなんて……風邪ひくし、身体にも悪いだろ? そもそも、なんでこんな時間に爆睡してるわけ? 昼寝じゃないだろ?」  ――それは、四歳年上の姉・藍子のマンションへ足を運び、彼女に会いに行くことだ。 「あー、昨日徹夜して仕事やってたから。朝の四時に終わって、そこから爆睡しちゃった」  藍子は悪びれる様子もなく、ケラケラと笑った。確かに彼女の座っているソファの下には、彼女が集めた資料と、手書きのメモが散らばっている。藍子はライターとしてフリーで活動している。彼女の言う通り、仕事を終えたその直後には、このソファーでもう眠りについていたのだろう。 「姉さん、別に仕事を熱心にするのは構わないけど、昼夜逆転は身体に悪いからやめてって俺言ったよね? しかも冷房もガンガンにして。いくら夏だからってこんなにキンキンにしてたら風邪引くよ?」  蒼はエアコンのリモコンを取り上げ、最大に設定してあった風量を弱めた。 「だってー、夜の方が仕事捗るんだもん」 「駄目といったら駄目だ。日付またぐ前には必ずベッドに入ること! いいね?」 「はいはい。分かったよぉーもう」  藍子はへらへらと笑って、まもとに取り合おうとしなかった。蒼はため息をついて、床に落ちている資料を拾い始めた。  A4サイズの用紙を数枚手にしたところで、床に、あるものが落ちているのが見えた。蒼はそれを拾った。一枚の、写真だった。藍子と、眼鏡をかけた男性のツーショット。ひゅっと、息が止まって、一瞬、全身が強張るのを蒼は感じた。  姉さん――と声をかけようとして、やめた。蒼は資料数枚とメモ用紙、そして一枚の写真をそっとローテーブルの上に置いた。写真は見えないよう、一番下に滑り込ませた。
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