姉弟

3/4
前へ
/65ページ
次へ
「蒼……あたし、これからどうしたらいいんだろ」  藍子は蒼の肩にしがみついて、わんわんと泣き出した。両親が亡くなって、孤独に陥って苦しくなったとき、藍子から『寂しいから抱き締めて』と頼まれて、まだ成長過程の小さな体躯で、蒼は一回り大きい姉の身体を、抱き留めたのだった。  あれから何年経ったのだろう――姉の身体は、思っていたよりも、ずっと、ずっと細かった。やせ細っていた。    今まで、どれだけ心細かっただろう。どれだけ苦しかったのだろう。一人では、抱えきれない重圧を、この小さな身体で、必死に受け止めようとしていたのだ。 「蒼……蒼……っ」  聖の死を、愛する家族の死を、その悲しい事実を、もう二度と会えないという運命を―― 「姉さん」  蒼はぐっと、力を込めて、姉の身体を抱きしめた。 「一緒に、考えよう」 「……え?」 「俺も、分からない。三年経っても、全然、分からないよ。やっぱり」  聖の死は――姉弟二人に深い深い、傷と痛みと、哀しみと、そして、一生埋まることのない、心の穴を、作ってしまった。  その受け止め方を、乗り越え方を、付き合い方を、蒼も藍子も、まだ、見つけていない。見つけられていない。二人なりの解を導き出すのは、きっと容易なことではないはずだ。一言では片づけられない。苦しみや葛藤はしつこく彼らを追いかけてくるだろう。けれど、それをしなければならない。なぜなら、どんなに悲しみに暮れようとも――遺された者は、生きていかねばならないのだから。 「――だから、一緒に考えよう。一緒に、苦しもう。俺がいるから。一緒に、背負うから。もう、一人じゃないから。な?」  藍子は瞳に涙をいっぱい浮かべて、大きく頷いた。そして暫く、姉弟は抱き合っていた。お互いの心音を聞き、温かさを持つ身体を感じ――そう、生きていることを確かめるために。そして、これから未来を生きていくために、お互いがお互いの存在を、誰よりも必要としていることを、ひしひしと感じながら。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加