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藍子はシャワーを浴びるといって、風呂場に行ってしまった。リビングから廊下へ通じるドアは開けっ放しになっていたので、シャーとお湯が流れるシャワーの音が蒼の耳にも微かに届いた。
誰もいなくなったリビングで、ふっと肩の力を緩めた。照明をつけていないので、部屋は暗い。蒼はリビング全体を見渡した。
拾った資料以外にも、部屋中に物が散乱していた。いつ買ったのか分からない飲みかけのペットボトルや、いつ着たのか分からない洋服。藍子は掃除や整理整頓といったことが大の苦手だった。
そうしてリビングをゆっくりと見渡していくうちに、蒼の視線があるものを捉えた。リビングの隅に、小さな仏壇が置かれている。
蒼は静かに仏壇に近づき、ゆっくりと腰を下ろした。
花立には、何本か色鮮やかな花が刺してあり、香炉には、線香の燃えかすが溜まっていた。
藍子の夫である聖は、三年前に亡くなった。当時彼は二十四歳。藍子は二十六歳だった。
――先程拾った藍子と聖の写真を思い出した。聖の、穏やかな笑み。
蒼はじっと仏壇を見つめた。手が少し、震える。三年経った今でも鮮明に、あの日のことを思い出せる。
――やめよう。無理に、思い起こすことはない。
蒼は必死に悪夢を振り払うように、顔を横に振り、勢い良く立ち上がった。
藍子がシャワーを終えるまでに、この散らかったリビングをどうにかしなくては。蒼は大きく息を吸って、片付けに取り掛かった。
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