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恐る恐る、振り返る。蒼の背後にいるのは、彼しかいない。
「え、と……青木、さん?」
青木ゆうは、先程までのリラックスした彼らしい表情ではなく、神妙な面持ちで、蒼を見つめ、肩を掴んで、決して離さない。
「君――今、いくつだっけ?」
「……今年、三十二になります」
――そうか、と、青木ゆうはぽつりと呟いた。
「三十二か……」
そのとき、青木ゆうの、彼の――自分の肩を掴む手が、微かに震えていることに、蒼は気づいた。
――あぁ、そうか。
蒼はすとんと、納得した。
『……いいなぁ』
ホテルの一室で、彼が呟いたあの台詞。あの一見場違いな、あの呟きは――
肩から、彼の手がゆっくりと外される。蒼はそれをただじっと、見守っていた。
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