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――そうだろう。例えそばにいるんだと考えても、死んだ人間は、もう、いないのだ。もう、会えないのだ。もう、地球上をどれだけ探そうとも、存在しないのだ。体温を感じることも、声をかけることも、笑みを交わすことも、できない。眺めのいい景色を見せてやることも、叶わないのだ。全ては、残された人間が、その事実に対して立ち直るための、心の穴を埋めるための、自己満足な考え方に、過ぎないのだ。
青木ゆうもまた、愛する家族の死という壮絶な出来事を、どうにかこうにか、自分の中で納得できるようにこねくり回して、ようやくたどり着いた一つの解に、縋りながら生きているのだ。
こうして――時折、悲しみに引き戻されながら、胸を引き裂かれるような孤独を、覚えながら。それでも、前を向いて、必死に、生きているのだ。
「……すまないね、突然、引き留めて」
「……いえ」
蒼は振り返らずに、ドアへと真っ直ぐ進んだ。そして部屋を出る瞬間、閉じられるドアの隙間から見えたのは、青木ゆうが、全身を震わせながら、タオルを目元に当てている光景だった。
――つきん、と胸が痛んだ。
「蒼? どうしたの?」
先に部屋を出ていた藍子が、きょとんとした顔で蒼を眺める。
「――ううん。何でもない。さ、ロビーに行って待ってよう」
姉の手を引いて、歩き出す。
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