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藍子と蒼は、二人が小学生の時に両親を交通事故で亡くし、施設で育った。施設とはいっても、面倒味のいい大人に囲まれ、周りの子供たちも問題を起こすようなタイプの子がいなかったせいで、施設暮らしは穏やかで平和なものだった。
けれど、それでも、蒼はよく感じていた。俺には、何故両親がいないのだろう。なんで、学校のクラスメイトはごく普通に、当たり前のように自分の親――パパやママ――の話をするのに、なんで俺は違うんだろう。
交通事故で、両親がこの世を去ったのは、幼いながらも、蒼は理解していた。けれど、両親がいないことで、蒼の心には孤独と寂しさと困惑が、徐々に積み上がっていった。
そういうとき、姉の藍子は蒼のそばについて、手を握ってくれた。
「パパとママはいないけど、お姉ちゃんがいるよ!」
そうやって、力強く励ましてくれた。自分だって辛いはずなのに、弟が落ち込んでいるからと、必死に笑顔を作って、寄り添ってくれた。
二人は孤独になると、お互いがお互いを支え合って生きてきた。たとえ『お年頃』と呼ばれる思春期に突入しようとも、高校を卒業して施設を出た後も、二人ともが社会人になったあとも。きっと、普通の家庭の姉弟なんかより、ずっとずっと、藍子と蒼の絆は深かったはずだ。たとえ両親がいなくとも、自分には姉という家族がいる。それが、幼い頃両親を失った蒼にとっての心の拠り所であり、何よりの支えであった。
だから藍子が結婚するという話を聞いて、あの変わり者で大雑把な彼女が結婚というのはびっくりしたが、素直に嬉しかった。姉に、夫というパートナーができ、自分にも、義理ではあるが新しい家族ができること。それは、蒼と藍子の、ずっと欠けていた何かを埋めてくれるような、不思議な感覚だった。
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