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「動かないで」
「無理」
「じゃ脱いで」
「それも無理」
「出来ないって」
「それは困る」
「どうしたらいいのよ」
「頑張れ」
「無茶苦茶よね」
………世の中には条理不条理があり、個人には得手不得手がある。
こいつが私に吹っ掛けている無理難題。
女子の意地にかけて何とかこなしたいと思うものの………
「わかった、じゃあ俺の膝の上に乗って」
「なんで?」
「くっついた方がやりやすくなるはず」
「馬鹿言わないで、腕が動かせなくなる」
「動かすのは手だろ」
「アンタ何にもわかってないわね」
でっかいため息が出る。
ああでも急がないと皆来てしまう。今日は文化祭展示で図書委員全員招集日。
しょうがない。何としてでも仕上げる。
「痛かったらごめん」
「それは手元が狂って刺してしまうかもってことか?」
「今更よね」
「会話だけ聞いてるとなんかエロいよな」
「何言ったかなんて覚えてない。マジでやばいの私」
「録音すりゃよかった」
こいつのシャツをくいっとひっぱり、上から三番目のボタンの位置を再度確認。
家庭科は苦手、苦手はもちろん裁縫。並縫い、返し縫い、裾まつり。あれやこれやの課題はいつもお母さん頼み。
ボタン付けなんて自分のものでさえ、やったことない。
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