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動揺してるのを勘違いするというアレだ。落ち着け私。いつもの私、通常営業の私に戻らねば。
「ついでに手、刺したげよっか?」
針を持った手はフリーだから、これ以上作業の邪魔するならいっそ一思いにチクッと……
と思ったのがバレたのか、右手も包み込まれた。
「ひでえヤツ。こんだけ必死に口説いてんのに?」
なに?今、口説かれてんの私?
いやいやまさか。
その口も縫ってあげる、と口に出そうとして黙る。
相変わらず口元はニヤついてるけど、実は顔面引きつってる?
瞳の奥には私だけが映ってる。
それが揺れてるのは何故?違う、揺れてるのはこいつじゃなくて、私。
針に目を落とす。糸を繋いだ針が暇そうに光ってる。
いかんいかん。
……まずはこれを片付けないと。
「とりあえず、ボタン付けさせて」
意外にあっさり手を離してくれた。
さて作業再開。
やり始めると、意外に簡単なことに気づいた。
ボタンの二つ穴に針を通す。行って帰ってまた行って。
こいつの体に針も私も触れないように慎重にゆっくりと作業する。
その内、胸のもやもやが収まってくる。
あとちょっとだ。
「終わったらデートな?」
またちょっかいが始まった。再び心臓の辺りがもやもやし始める。
「誰がつきあうと言った?」
よし、出来た。後は糸を切って完成。
「ふうん。首まで真っ赤だけど」
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