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さらに奧にひっそり花をつける似たような葉で黄色い花を指すと、ますますあきれた声を上げた。
「あれは水仙だろう?それくらい覚えろよ」
「必要ないから」
母と姉が丹精込めて作った庭。
姉が心身共に破綻して以来、勝己がその輪に加わり、いつも介添えしていた。
そして春彦が生まれ、おとなしい甥が小さな手でそっと花に触れる。
ウメ、マンサク、ヤブツバキ、アセビ、ネコヤナギ、ダンコウバイ、ミツマタ、トサミズキ、ロウバイ、クロモジ、コブシ、シキミ、ユスラウメ、モモ、マヤブキ、ジンチョウゲ、モクレン、ミモザ・・・。
花に囲まれて、家族が笑う。
フキノトウ、フクジュソウ、ツクシ、ナズナ、スズシロ、ハコベ、ホトケノザ、スミレ、ハルリンドウ、トラノオ、カタバミ、ナノハナ・・・。
冬の寒さを越えて、出会う花に喜びを。
フユアヤメ、クリスマスローズ、クロッカス、ストック、スイセン、スイートアリッサム、スノードロップ、スノーフレーク、スナニラ、ビオラ、ヒヤシンス、プリムラ、フリージア、ムスカリ・・・。
それぞれの心に光を灯して。
「・・・憲」
ふいに背後から抱きしめられた。
「俺がいるから」
背中に感じる、いきたおと。
「ずっと、いるよ」
暖かい。
確かな力が天と地を繋ぐ。
「・・・そうか」
風が吹く。
はるか遠くから滑るように迫ってきて、あっという間に通り過ぎていった。
命が、香る。
木々がざわめき、草花が揺れ、水が通っていく。
目覚めの音が聞こえたように思えた。
ぼんやりとした光の中、命の色が瞬く。
花の名は、言わない。
あれは、問うべきもの。
「・・・すこし冷えた。暖めろ」
振り向いて、求める。
差し出される、誠実な唇。
吐息が、交わる。
熱に包まれて、溶かされていく。
「かつみ・・・」
つなぎ止めるための呪文。
「寒いから・・・」
だから、そばにいろ。
二人きりの王国。
秘密の花園。
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