三毛猫探し

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「いやあ! 凄いじゃないか母さん! 日本一周旅行を当てるなんて!」  ビールを飲みながら父親が言った。  食卓には冷麺が並んでいる。作ったのはモモカだ。母親はずっと夢を見ているような感覚に陥り、料理どころじゃなかったからモモカが代わりに作ったのだ。 「ああ……。信じられないわ。こんなことってあるのかしら」  まだぼんやりとしながら、彼女は言った。傍らには「日本一周船の旅。ペア招待券」と書かれたチケットが置かれている。箸がまったく進んでいない。早く食べないと麺が伸びるのに、とモモカは内心で思った。 「それで、出発はいつなの?」  モモカは訊いた。  母親はチケットを手に取り、裏面を読み上げる」 「ええっと……。出発は八月三日……。ええっ! 大変! 明後日だわ!」 「明後日!? ずいぶん急な話だな!」  わはははと、父親は笑った。いや、笑いごとではないぞ、とモモカは思ったが口に出すのは止めておいた。 「それじゃあ早く準備しなきゃな! 母さん、モモカ。気を付けて行ってくるんだぞ!」 「えっ。待ってよ。お父さんとお母さんが行くんじゃないの?」  モモカは驚いて言った。それに対して、父親が答える。 「何を言ってるんだ! こういう旅は女同士の方が楽しめるだろう? 心おきなく楽しんできなさい! せっかくの夏休みなんだから」  それは困る、とモモカは思った。そんなことをしたら、夏休みの計画が水の泡になってしまう。
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