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「いや……。これはお父さんとお母さんが行くべきだよ」
モモカは静かな声で言った。
「いつもお仕事を頑張ってくれている二人に、神様がプレゼントをくれたんだよ、きっと。だから、このチケットは二人に使って欲しい。そうしないと、私は後悔で旅なんか楽しめないと思う」
何が神様だプレゼントだ、と内心自分につっこみを入れながら、モモカは一気にそう言った。すると、両親の目がどんどんと滲んでいくのが分かった。うわあ、止めてくれそういうのは……。
「モモカ! お前って子は……。本当に良い子に育ったな!」
「何て優しいことを言うのモモカ……。あなたは私たちの自慢の子供よ!」
さめざめと涙を流す両親をよそに、モモカは苦笑した。本当に、似たもの夫婦とはこういう人たちのことをいうのではないだろうか。
「まぁ、私のことは忘れて、楽しんできてよ」
「忘れるなんて出来ないわ! ちゃんとお土産を買ってくるからね!」
「しかしモモカ……。家を長い間開けることになるが、大丈夫か?」
心配そうに父親が訊いた。モモカは自信ありげに答える。
「今日の晩御飯だって私が作ったんだよ? 大丈夫。ちょっとくらいどうにかなるって!」
「そうか……。困ったことがあったら、すぐに連絡するんだぞ!」
「分かった」
モモカは心の中で溜息を吐いた。良かった。どうにか夏休みの計画は潰されずにすみそうだ。なんせ、夏は勝負の時なのだ! モモカは立ち上がって食べ終えた食器を流し台に運んだ。
両親不在の夏休みか……。いったいどんな夏になるだろうか。そんな期待も少し胸に抱き、モモカは食器を水に浸した。さあ、お風呂の前に古典の宿題をやってしまおう。そう思いながら。
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