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もっとハイドさんの顔が見たかったが、ハイドさんは勘が鋭い…もしかしたらイノリを瞬だと気付いてしまうかもしれない。
それだけはどうしてもダメだ、もし死んだはずの元恋人なんて現れたらハイドさんを困らせて幸せを壊してしまう。
…ハイドさんは婚約者の人と幸せになるべきなんだ…きっとハイドさんも瞬と居ても幸せになれないと思ったから婚約者のところに行く事に決めたのだろう。
傷付く資格なんてないのに、痛い痛い…
そしてハイドさんの声が聞こえて心臓が飛び出るほど驚いた。
「飲みたきゃ一人で飲め」
「一人酒なんて寂しいじゃねーか」
バーを挟みハイドさんと俺が寄りかかる場所が同じになった。
ハイドさんと俺は気付いていないが、俺はハイドさんが近くにいるような気持ちになり、怯えていた。
…どうしよう、このままバーに入ったら鉢合わせしてしまう。
今すぐ離れようとするが、足が動かない。
恐怖で石のように足が重くなっている。
…それだけじゃない、きっとハイドさんに会いたい気持ちが勝っているのだろう。
必死に足と格闘しているとハイドさんが動く気配がした。
「付き合いきれない」
「ちょっ!!待てって!!」
足音と共に二人が遠ざかる。
ホッとしたと同時にびくともしなかった足が軽くなり、普通に歩き出し家に向かう。
…まだ心臓がドキドキしている。
本物のハイドさんの声は俺の知らない冷めたような声だった。
ハイドさんはやはり氷の騎士になってしまったのか。
…それを知る事は俺には出来なかった。
その日俺は怖い夢を見た。
ハイドさんがあの冷たい声で俺を拒絶した。
俺は夢だけでもハイドさんに会いたかったのに、夢でも結ばれる事はないと言われたような気がした。
…ハイドさんは邪魔な存在だと思っていた?
じゃあ…死んで嬉しかった?
何故か幸せな日々より悪夢をハイドさんの本音だと思った。
心がぽっかりと開いた。
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