第一話

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目が覚めると開店時間30分前だった。 まだボーッとしながらのろのろと起きて身支度をする。 洗面台に立つと酷い顔だった。 寝ながら泣いたのか目元は赤くなり髪もボサボサ。 …こんな顔をしてお店を開けられない。 顔を洗い髪を整えてから店の外に出た。 並んでくれてまで俺のお菓子を楽しみにしてくれてる人達に謝りながら今日はお店を休む事にした。 気分転換に何処か散歩にでも行こうかな。 厨房に行きおにぎりを作りピクニック気分で部屋にあったリュックにラップで包んだおにぎりと水筒を入れて背中に背負う。 家を出てある場所に向かった。 ハイドさんが遠征に出かけた時、城に一人でいる時間が怖くなりいつも行っていた場所があった。 それはハイドさんも知らない場所だった。 実は瞬が死んだあの日、ハイドさんが出かけて帰ってきたら一週間くらい休みが出来ると聞いていた。 あの時は婚約者の存在を知らず、ハイドさんの休みの日に一緒に行こうと思っていた…結局叶わなかったけど… 俺は城下町の壁にある隠れた抜け道のトンネルを通り進む。 この道はイズレイン帝国の横にある森に繋がっている。 トンネルの中は薄気味悪く、入ったら二度と出られないなんて噂があり俺以外入ろうと思う人はいないだろう。 当時は噂を知らず入り、出られたから噂を知り、噂は噂だと思った。 トンネルに一箇所出口を知らせに光が見えた。 抜けるとそこには視界いっぱいの緑が出迎えた。 一年前だが俺にとってはついこの間来たばかりなのに、懐かしく感じた。 そよ風が気持ちよくて深呼吸する。 森をもう少し抜けると俺のお気に入りの場所に出る。 そこはちょうど太陽が森の葉を光らせて幻想的な空間を生み出す湖だった。 汚れがない透き通った綺麗な青い湖に光が反射してキラキラと光る。 俺がそこに着くとふよふよと湖の側を飛んでいた丸い光が俺を歓迎するように集まってくる。 丸い光は精霊と呼ばれる種族だった。 だからこの森は精霊の森と呼ばれている。
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