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それは付き合って半年の出来事だった。
瞬はいつものようにお菓子の本を読んでいた。
最初は言葉も通じなかった瞬だが、ハイドに教えてもらい読み書きが出来るようになっていた。
だいぶこの世界にも慣れてきた。
暖かい春の日差しが眩しい今日、瞬は机に向かっていた。
机に山積みされた本の上に置いてあった料理本を手に取る。
お菓子だけじゃなく、料理もハイドに振る舞えたらと思い嬉しそうに笑う。
窓の側には大事に枯らさないように育てたベコニアの花が咲いていた。
瞬もいつかハイドみたいにカッコよく花を渡して気持ちを伝えたかったが、花言葉の本は何処にも売ってなかった。
ハイドに聞けば早いだろうがなんかそれじゃあカッコ悪いから嫌だった。
瞬だって男だ、好きな人にカッコつけたいのは当たり前だ。
ハイドは何処で花言葉を知ったのか知りたくなり、料理本を閉じる。
するとタイミングよく部屋のドアがノックされた。
瞬は椅子から降りて扉を開けると見知った顔があった。
「やっほー瞬様」
「…その、瞬様ってやめて下さい…リチャードさん」
金髪に腰まで長い髪を一つにまとめているイタズラっぽい笑みで片手を上げて挨拶する軍服姿の彼はリチャード・ヴァーン。
騎士副団長でハイドの幼馴染み。
よく瞬を弟のように可愛がってくれて兄貴肌の青年だ。
瞬とハイドの一番の理解者と思っていいほど信頼出来る相手だ。
ただし、女性にはとてもだらしない。
部屋に招くとリチャードはすぐに顔を険しくする。
「瞬様、まだこの部屋にいるの?」
「え、はい…俺の部屋ですから」
瞬様呼びはどうしても直してくれそうになかった。
瞬の部屋は屋根裏の少々埃っぽい部屋だった。
これでも掃除をした方だ、頑固すぎる汚れが多くて綺麗とはお世辞でも言えないが…
異世界に来てから数ヶ月用意してくれた部屋を使っていたが、瞬はもったいないほど広すぎて落ち着かず屋根裏部屋が一番居心地いいとハイドに訴えた。
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