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それから数日間経った。
奏を見る回数がかなり減った気がする。例のバレンタインとやらは当日を迎えていた。
別に奏が何してようと気にならないが、風邪とか引かれているのなら看病ぐらいはしてあげたいとは思う。
そう思ったが、奏の自室に行っても見当たらなかったので自室に戻ることにした。
帰路、そろりと俺の部屋に入っていく侵入者が目に入った。
「何してるの、奏?」
声をかけると慌ててこちらを振り返る。
「……な、何もしてないわよ!」
かなり驚いているのか早口だった。何もしていない訳がない。
「何してたの?」
奏は目を反らし、小声でだってと繰り返していたが
「それより!……と、糖分摂りなさいよ、糖分!」
「は?」
突然手に持っていた物を無理矢理押し付けられ、部屋を早足に去っていった。
「奏?」
ふと、奏が紙を落としていったことに気がついた。
意図的なのか、偶発的なのかは分からないが、そこには二文字の言葉が書かれていた。
「これ、勇也が知ったら嫉妬どころじゃ済まないんだろうな……」
奏が落としていった紙を無くさないよう手帳にしまった。
それから押し付けられた箱を開けると中にはチョコレートクッキーが入っていた。良い匂いのするそれを一つ口に入れる。
それは、俺にバレンタインの需要を理解させるのには十分な味だった。
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