海の絵を描いた君塚くん

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 白いキャンパスを青い絵の具で染めていく。たまに白く波を入れて、ただ一面に広がる海。真っ青な雲一つない青空も描く。じいちゃんが乗っている漁船も入れた。  題名は「海」じゃなく、「青」にしようと思う。だって、海の絵を書いて「海」だなんてありきたり過ぎるし面白くない。僕の好きな色だし、青色をイメージしてこの絵を描いたんだから、この絵は「青」にする予定だ。 「佐藤君、やっぱり絵ぇ上手いね」  小学生の頃から同じクラスだった鈴木さんが僕の絵を覗き込んできた。鈴木さんは僕が小学生の頃に絵画コンクールで金賞を取った事を知っている数少ないクラメイトだ。  僕はありがとうと言って、またキャンパスに目をむける。  鈴木さんと仲が良い栗田さんも俺の絵を覗き込んで、ほんまやねぇと感嘆の声をあげた。鈴木さんが、佐藤君は小学校の頃に絵画コンクールで金賞とったんよと自慢げに話をすると、「佐藤君体育の方が好きそうやから意外やわぁ」と栗田さんが僕のキャンパスをじっと見つめた。  僕の話題で会話が進んでいく。金賞を獲った時の絵はどんなだった、とか何年生の頃だとかそんな会話が耳に入ってくるにつれて、僕の頬と耳は熱くなっていった。  栗田さんは隣町の小学校出身だから、僕が絵が上手かったとかそんな事は全然知らない。中学生になって色々な小学校から集まって、やっと「クラス」という様な人数になった。今の学年も一クラスしかないが、うちの学年は十八人もいる。最近転入生が来て十九人になった。小学生の頃は一学年三人くらいしか居なかったし、男子は僕だけだったからやっと友達が出来て嬉しい。  でも、絵が好きな子なんて誰も居ない。昼休みのたびにサッカーやゲームに誘われる毎日。美術の授業でやっと彫刻の授業が終わって、今月からやっと絵の授業になって漸く絵に触れられる。授業中だからちょっかいを出される事もない。木曜午後一時の五限のこの時間が最近の僕の至福の時間だった。
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