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(あれ、なんかのぶひろの目線が、高い?)
それは真新しい靴の影響もあったのだろうけど、このとき私はのぶひろを完全に「大きく」感じていた。
そんなのぶひろの手が、私の頭に伸びる。
「それじゃあ、そろそろ行くね」
のぶひろは私の頭をぽんと撫でると、くるりと背を向けて歩き出した。
ぽかんと見送る私に、お母さんがなぜか笑みを浮かべていた。
「ふふ……信広くん、もうすっかり大人ねぇ。もう弟なんて言えないんじゃない?」
「っ……」
お母さんの嫌味な言葉に反論したかったけど、できなかった。
中学生と小学生の差をまざまざと見せ付けられた気分だったから。
あとから考えると、のぶひろも精一杯背伸びしてたんだろう。いくら印象は変わるといっても、服を着替えただけで何もかも一変するわけがないのだから。
そのときの私はそれには気づかず、ただ対抗心を燃やしていた。
「……どうやったら、大人になれるのかな」
いますぐは無理でも、私も中学にあがる頃には、のぶひろ以上に大人になってやろうと思った。
覆されてしまった立場をもう一度、『姉と弟』に戻すために。
そう決意を固める私に対し、お母さんはただ一言。
「とりあえず、遅刻してるようじゃダメよねぇ」
その一言で、私はもう家を出る時間をとっくに過ぎていることに気づく。
「わわっ、いってきます!」
私は大急ぎでランドセルを背負い、小学校へと向かった。
いつもなら遅れそうになったらのぶひろが教えてくれるのに、と思ってしまい、寂しさと悔しさが同時に胸にこみ上げてきた。
それを振り切るために、私は走る速度をあげる。
のぶひろがどうして『お姉ちゃん』呼びを拒絶し、無理して大人びてまで『姉と弟』の立場を覆したかったのか。
その意味を子供の私は全く思い至りもしなかったのだった。
おわり
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