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魔王はあらゆる魔術を己が力とした。嵐を起こし、地を震わせ、地獄の業火を操り、果てには、自らの力を分けた魔物たちを作り、世に解き放った。
魔王はやがて禁忌の魔術にも手をつけ、そうして生まれたのが、私という魔物だった。
「ああ、恐ろしい。お前は恐ろしい怪物だ」
生まれたばかりのことは、もはや覚えてはおらぬ。しかし、物心がついたころには周りにいる誰からもそう言われていた。
私の身体は、あの巨漢の鎧に丁度よく収まった。まさしくこれは神がくれた奇跡であろうと、私は思った。
こうしていれば、人間のようにしか見えぬだろう。魔物どもと共には生きれぬのであれば、人間に紛れて生きるまでである。
しかし難点はいくつかある。この鎧を人前では外せぬし、何よりこのおぞましい声を聞けば、私が人に化けた魔物だと分かってしまうであろう。これでは人の生活に溶け込むのは、至難の技だ。
私は考えた。そして、この骸から少し離れたところに落ちている、一本の剣を捉えた。
まったく私は、周りの言った通りの怪物であった。
魔物を斬り倒し、戦いを繰り返すたび、私の力は強くなっていった。経験を重ねることで、私はどこまでも怪物めいていったのである。
しかし、それも悪くはなかった。なぜならば、私に向けられたのはかつてのような虐待ではなく、賛辞であったからだ。
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