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そうして彼女は去っていく。  それ以来、彼女を……「墓守の乙女」をアテにしている。自分の記憶すら曖昧で信用できぬのであれば、他に縋れるのは彼女しかいない。それに、あの美しい声が頭から離れぬ。どうにか、あの仮面の下の素顔を見せてはくれないだろうか。  月は常に満月である。星の配置も変わらぬ。どれだけ時間が経ったか、分からぬのはそのためである。  墓守の乙女。  彼女は、定期的にこの墓地全体を見回り、ああして花を供えているのであろうか。もしそうであるならば、おそらくは再びここを訪れるはずだ。もう墓前の花もしおれ、取り替えるべき頃合いに見える。  彼女が来るまでは、目を瞑って待つとしよう。  そういえば、私の鎧にはあちこちに傷があり、内に着込んだ鎖帷子には穴が空いている箇所もある。  何か思い出しそうになるのだが、今ひとつ、足りぬ。  足音が聞こえてきた。私は、ようやく重い腰を上げる。  彼女が、立ち尽くす私の姿を認める。花の取り替えをする手は休めず、着実に墓守の仕事を執り行いながら、少しずつ私に近づいてゆく。  いよいよ我が名無しの墓のところまで、彼女は来た。そして問う。 「安らかな眠りを、お望みですか?」     
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