いつか絶対、言ってやろうと思ってた

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 竜斗は、うん、と珍しくささやかな声で呟いた。  黄昏色(たそがれいろ)の風は無性にもの寂しさを誘う。千夏は、永久(とわ)の別れでもないのに、と小さく頭を振った。 「……ほんでな」 「うん?」 「試合とかも、もう応援に来んでええから」 「え……?」  胸が、ちくりと痛んだ。問いただそうとして、見つめ返した竜斗が妙に大人びていて――まるで他人のように思えて千夏は口をつぐむ。青筋がうかぶほどにぼこぼこした男臭い五厘刈(ごりんが)り。目線も、いつのまにか同じくらいにまで高くなっていたのだ。 「――俺は、甲子園に行くから。だからその時には、アルプスの応援席のチケット送るから。その時まで、来んでええから」  ちくちくと、胸が痛いのは何故なのだろう。いつも惚れた惚れたと言ってくれていた弟みたいに可愛い存在が消えてしまったことへの喪失感から?  千夏にはよくわからないまま、辿り着いた公園を一回りして家路につく。意識して会話を続けようとこころみたが、意に反して言葉は空回りばかり。自然と、口数は少なくなってしまう。いつものように、軽いノリで頭を撫でてやることも、とうとうできずにいた。  そうして桜の花が咲き開くよりも早く、竜斗は高校の門をくぐっていったのだった。
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