いつか絶対、言ってやろうと思ってた

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いつか絶対、言ってやろうと思ってた

 竜斗(たつと)千夏(ちなつ)は幼馴染みだ。  歳は三つ、千夏のほうがお姉さん。そのうえ夏生まれで発育のいい千夏に対し、十二月生まれの竜斗はずっとチビだったものだから、見た目にも内実にも姉と弟のような間柄だった。  通っていた保育園が一緒で家も近く、母同士がいわゆる、ママ友という関係。お互い一人っ子で、子どもの頃――それこそ、かたことの日本語しか話せないような幼い頃から、まさしく姉弟のように育ってきた。ランチやおやつやお風呂やの日常の生活はもとより、ピクニックに遊園地に映画、いろんなところに一緒に遊びに連れて行ってもらった。  それから毎年夏になると、高校野球を観に甲子園に行った。二人の父はそれぞれ学生時代には野球部に所属していて、とくに竜斗はおもちゃのバットなどをよく買い与えられていた。そのうえ高校球児たちの聖地が地元ということもあり、物心(ものごころ)ついた頃から、野球は二人にとって馴染みの深いスポーツとなっていた。  暑い熱い日射しのなか、黒い土にまみれ泥だらけになって真剣勝負に挑む高校生たちの姿は特に鮮烈だった。一球一球、ギラつく野性のような眼で次の塁を狙う日に焼けた顔。投打ともに汗を散らしながら白球の行方を追うひたむきな彼らに、幼い千夏は深い憧憬を覚えていたのだった。 「かっこええなぁ」 「うん。かっこええな」  同じように、竜斗も目を輝かせて熱波の舞う球場で千夏のとなりに並んで声援を送っていた。
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