いつか絶対、言ってやろうと思ってた

2/9
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 小学三年のとき、千夏は地元の少年野球クラブに入った。女子の中では背が高めで足が早く、与えられた首尾位置は外野の(かなめ)のセンター。  初めての試合で“8番”の背番号をもらい、嬉しくて嬉しくて真新しいユニフォームの背に縫いつけてもらうや、すぐに竜斗の家に見せびらかしに行った。 「どう? (たっ)ちゃん」 「うわっ、かっこええ!」  竜斗は頬を上気させ、目をぱちぱちと眩しそうに瞬かせながら両の手を握った。えへへ、と千夏は笑って帽子をかぶりなおす。 「日曜の試合、観にきてね」 「うん、行く。絶対行く!」  元気よく約束した竜斗は、その言葉に違えることなく、日曜には朝一から応援に来てくれて、そして千夏の初フライキャッチと初ヒットを見届けてくれた。  だがもちろん、まったく初めての小学生の試合である。その何倍も空振りをしたし、エラーもした。試合後には監督やコーチから、ねぎらいつつもたくさんダメ出しを受けた。  見るとやるとでは大違い。思ったようにうまく動けない悔しさに落ち込みながら帰路についた千夏のもとへ、竜斗が小走りでたたと駆け寄ってきた。 「千夏(ちなっ)ちゃん、かっこよかったなぁ!」 「(たっ)ちゃん……。ううん、でもあたしなんか、めっちゃヘタクソやから。いっぱい三振したし、ボールも落としちゃったし、ほんま、全然あかんわ」 「そうか? おれには千夏(ちなっ)ちゃんはめっちゃかっこよく見えたで。すごかった!」 「……ほんまに?」 「ほんまに! おれ、惚れてもた!」  その言葉に、思わず千夏は、ぷっと噴き出してしまう。 「なんそれ。どこで覚えたんよ~」 「こないだ、テレビでやってた。真似っこやけど、ほんまやで。おれ、千夏ちゃんに惚れた!」  まだ年長のガキんちょのくせにオマセやなぁと笑いながら、千夏は照れ臭さをごまかすために竜斗の頭をぽすんと叩いてやった。  覚えたての言葉を使ってみたかったのか、慰めにしてはかわいいことを言う。いつものように弟に対するように話をしていた千夏はふわふわとそんなことを思っていた。  の、だが。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!