いつか絶対、言ってやろうと思ってた

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 時おり、思い出したようにLINEがきた。千夏からも、折に触れてメッセージを送った。  ――別にもともと、付き合ってたわけやないし。  千夏は拭いきれないもやもやした感情に自分で(つくろ)いごとを探していたように思う。  ――竜ちゃんは竜ちゃんで頑張ってるんやから。私は私で大学生活をエンジョイしなくちゃ。彼氏とか作って、いっぱいデートもするんやっ!  竜斗が本当に、彼の彼自身の青春を燃やして見事に勝って、三年の夏に甲子園のチケットを送ってくれたら。  その時は、素敵な彼氏と一緒に応援に行ってやるんや、私は私で、私の青春を爆発させてやるんやっと、幾度となく一人問答を繰り返した。  それはもしかしたら、応援に来るなと言った、あの夕焼けの日の竜斗に向けての恨み言だったのかもしれなかった。  そうしていよいよ、三年後の夏。千夏は新聞で竜斗の所属する野球部のメンバー表を見つけた。背番号は5。今はサードを守り、副キャプテンも務めているらしかった。  約束だから。  千夏は竜斗の最後の大会の、県予選にも応援に行かなかった。ネットや新聞の速報を逐一(ちくいち)チェックして、勝ち上がっていくのをひたすら祈るだけ。 さすがは強豪校、ベスト4までは順調にコマを進めていく。準決勝は五点も先制され、あわやという展開だったが、後半に一気に攻め立てての逆転勝利。  決勝でも1ー0で先制されたまま最終回を迎えたが、9回裏に逆転サヨナラの二点タイムリーヒットで見事に優勝した。  千夏はスマホのネット速報で試合経過を見守りながら、最後に竜斗がタイムリーを放ったことを知り、大学の講義中だというのに、よしっと声に出してガッツポーズをとってしまった。  それからすぐに、甲子園のアルプス席のチケットが送られてきた。子どもの頃、何度も足を運んだ高校球児たちの聖地。二人で憧れて見渡した熱くて広い夢の球場。  竜斗は本当に、大願を叶え、そして千夏との約束を果たしてくれたのだ。
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