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「きゃー、だ、大丈夫?達也さん!」
「だいじょうぶ・・・。たぶん」
本当はぜんぜん大丈夫じゃない。
マリオがらみのいざこざよりも、白い百合のような妻の口からそんな真実を聞かされることの方が衝撃だ。
「こうなると、もしかしたら訪ねてきたりして・・・」
「なんで」
「あきらめてないかもって、生ちゃんが言っていたから」
「・・・なんだよそれ・・・」
嫌な予感が岡本の脳内に浸透してきたその時、携帯電話が鳴った。
送信者は立石。
正直、これ以上巻き込まれたくない。
「おう、なんだ」
平静を装って出ると、困惑した声が聞こえてくる。
「朝っぱらから悪い。実は昨日のショコラティエがマンションの入り口に現われて、『カズキ』はどこだと言うので、一応この部屋ではないと答えたのだが・・・」
立石も、嫌な予感を覚えたのだろう。
なら池山に電話してみれば良いのだが、捕まらないらしい。
らしくない行動だが、思いあまってのことと推測できる。
「・・・あーうー、あのな。お前のその部屋の、前の住人に聞いてみたら解るんじゃないか?」
本当は、うすうす解っているだろう。
立石の借りている部屋の前の住人は、長谷川生だ。
「長谷川はここのところニューヨークで仕事だったから、昨日の夜遅くに帰り着いたばかりだと思う」
はっと気が付くと、妻の携帯電話からラインの着信が盛んに鳴っていた。
そして、彼女は聞き迫る勢いでキーを叩き続けている。
・・・女どものネットワークに拡散したな・・・。
「そうか。でもな。多分、もうこの件はそいつの耳に入ったと思うぞ」
「え?」
回線のむこうでピロリンピロリンと鳴り続けるのが聞こえたらしく、いつもの落ち着いた声に戻る。
「・・・そうか。それならまあ、話が早いか・・・」
「女って生きものは、こういう話になると、なんでイキイキしてくるんだろうな・・・」
まあ、妻にはいつでも元気でいて欲しいけれど。
「素早い対応に感謝する、と、奥さんに伝えてくれ」
「アイアイサー」
そして。
狂乱のバレンタイン騒動が始まる。
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