パンドラの箱。

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 いきなりがたんと音を立てて立ち上がった彼女の瞳が、いつになくらんらんと光っているのは・・・。  気のせいだろうか。 「マリオ・カッシーニ、マリオ・・・・。どこかで聞いた・・・。ニューヨークって言ったら・・・」  宙を凝視して、うろうろとさまよいながらブツブツと呟くその姿は・・・。  少し、神がかり的で、ちょっと・・・怖い。 「あああ!ニューヨークのマリオ!あの男か!」 「・・・どの男?」 「ほら、ほらほら、生ちゃんの、元彼氏!」  生ちゃん、とは、長谷川生という名で、妻が師事している茶道家の孫娘で、同僚・立石徹の元同級生。  そして、池山和基の元彼女で、シングルマザーで、更には立石がずっと追い回している女。  岡本は密かにあの女は魔女に違いないと思っている。  そうでなくてはどうして、こんな事態に陥ったりしようか。 「マリオ・カッシーニが、元彼氏?」  見たくも聞きたくもないのに、またもやパンドラの箱を開いてしまったようだ。 「うわ、ややこし・・・」 「そうね、ややこしいことのなったわね・・・。ちなみに多分、和基が千人目って言うのはウソね」 「は?」 「マリオは和基の前に別れたんだけど、そのあとニューヨークで再会して、それからずっと・・・」 「ずっと?」 「ええと・・・」  ここに来て何か不都合な事を思い出したらしい妻が急にしどろもどろになる。 「ええとね・・・。プライバシーに関わるから、知らない方が良いかも・・・」 「いや、今更だろ。ここに来てそれはないだろ」  あの大げさなイベントがフェイクなら何があるというのだ。 「ええとね・・・」 「ああ」 「えっと、ニューヨークに引き抜かれた後、セレブリティたちに連れ回されているうちに、マリオの嗜好がね。色々変わったらしいの」 「思考?考え方?」 「いや、そうじゃなくて、男女関係の趣味」 「ああ・・・」  二月の爽やかな朝の雲行きが、だんだんと怪しくなっていく。 「ええとね。さん・・・じゃなくて、ら、乱取り?みたいなものが好きになって、和基を交えてどう?って、かなりしつこく申し入れられていたとか・・・」  ごん。  思わず、テーブルに額を打ち付けた。
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