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 それを見届けると、彼女はふうと満足げなため息をついた。 「ねえねえ。これ見て、お兄ちゃん! すごいでしょ、ハリネズミだよ!」  そこで、少女――妹の美里奈(みりな)はようやく、傍らに立ってこの拷問を見つめていた俺――良一(りょういち)へと振り向く。自らの『作品』を得意げに手で示しながら。  ハムスターは全身に穿たれた傷口から血を流し、針を赤く濡らしながら最期の痙攣を続けている。もしもそれだけの知能があったとすれば、『どうしてこんな目に』という悲痛な疑問がその小さな脳髄に駆け巡っていることだろう。  いや、あるいは眼窩に刺された針のせいで脳はとっくに破壊されているかもしれないが。  俺はそんな凄惨なアートを前にしながら無邪気に目を輝かせる妹に、ふっと頬を綻ばせた。 「ああ。面白いな、それ」 「でしょ? でしょでしょ? ハムスターなのにハリネズミっていうのがポイントなんだよ! すっごくきれいでしょ?」  美里奈が整った顔に可憐な笑みを咲かせてはしゃぐ声が、家の中にしつらえたアトリエ内で響く。もう使われていないイーゼルや花瓶や胸像は埃が積もっている。陰鬱な空間の中で、美里奈の声だけが軽やかだった。     
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