神殿の事情

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 今までも優れた剣士や魔術師が現れた。  次は何だ。騎士か。魔物か。 「おお……これは……」  死を忘れた戦士は全身が震えた。  死んでも離すものかと握っていた剣を石畳に落とし、呆然とする。 「騎士団長、もうよいのです。今まで真に大義でした」 「……姫」  光の海に現れたのは豪華な衣装をまとった一国の王女だった。  レイアスがリーゼと協力して行った英霊召喚。それによって呼び出したのは戦士が忠誠を誓った姫その人であった。 「この者が言ったことは真実です。私たちの時代はすでに終わりました」 「姫……ああ……なんということだ……」  戦士は否定することも疑うことも許されない相手から真実を告げられ、絶望を知った。それを理解した高貴な魂は優しい声で語りかけた。 「嘆く必要はありません。貴方が戦った魔物は封印され、父と私たちは死した貴方を称えて丁重に弔いました。貴方は私たちを守り抜いたのです。騎士団長、先祖が住まう土地に共に逝きましょう。さあ、私の手をとりなさい」 「姫……おお……」  光の糸で紡いだような手を差し伸べられ、戦士は恐る恐る腕を上げた。     
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