神殿の事情

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 通路の先から異様な気配を感じ、彼は身構えた。  ただのスケルトンなどではない強者のそれだ。がしゃりっと重い音が一定の間隔で鳴り、鎧を着た足音だと彼は思った。暗闇から聖火が照らす領域にぬうっと現れたのは重厚な銀色の甲冑に守られた戦士だった。顔はすでにミイラ化しており、甲冑にいくつも穴や傷があるところを見ると遥か昔に斃れ、執念だけで動き続ける戦士だろうと彼は推察した。 「姫……」  ミイラは乾いた声で言った。  いや、正確には言語ではなく全員の脳内にそういう思念が届いたのだ。   「よくぞご無事で……」  そう言うと目の前のミイラはリーゼに向かって膝をついた。  リーゼと神官たちは戸惑い、この現象を説明をしてくれとレイアスを見た。彼は少ない情報と経験からミイラの思惑を推測する。 「レイアスさん、これはどういうことでしょう?」 「たぶんだけど、君の波長が彼の知ってる誰かに似てるんだと思う。姫と言ってるからこの遺跡の王女かも」  生きる死者は目が見えるわけではない。網膜や水晶体などはすでに腐敗し、スケルトンにいたっては骨しか存在しない。それでも冒険者などに襲い掛かってくるのは生者が持つ命のオーラや波長を感じているからといわれている。     
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