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さて、お察しの通り。
ここで語っているわけだから、私はとりあえず今の今まで生存している。そこで取り殺されて死んだなんてことはないから安心してほしい。
問題は、この話には後日談があるということ。
私はその現場からどう帰ったかも覚えておらず、気が付いたら自宅のベットの上だったというオチで。ああ、全部夢だったのかと一端は安堵したのだが。
その日学校に行き、放課後部室に顔を出して――唖然としたのだ。
あの、青い壁がなくなっている。
部室が広くなっていて、私たちの空間を寸断していた邪魔な青空は一切影も形もなくなっていたのだ。小屋のドアが一つしかない、なんてこともない。何がどうなったのか、私が半分パニックになって後輩に尋ねると、彼女は笑いながら答えたのである。
『青い壁ぇ?なんですかそれ。そんなもの最初からありませんよぉ』
では千穂先輩はどうだ。彼女に聞けば全てわかるのではないか。そう思って口を開きかけ、気が付いた。
千穂――先輩?
――私は部長で、三年生なのに…先輩?どうして先輩がまだ、この部室にいるの?
彼女はいつも、部室にいた。
私が三年生になったなら、彼女はとっくに卒業していなければおかしいはずなのに。
一年生の時からそこにいた彼女は、何も変わらず三年間ずっとそこに居続けたのだ。
『千穂先輩?誰なのそれ?』
漫研の、同級生の友人にも言われた。ああ、どうしておかしいと思わなかったのだろう。
一体どこからどこまでが夢だったのだ。夢ではないのなら、私が三年間見てきた先輩と、あの偽りの狭苦しい青空は一体どこに消えてしまったというのか。
まだ、目の前には焼き付いている。
あおい、あおい、あおい――ナニカを封じていた、あおい、いろ。
きっと気のせいに違いないのだ。
あの耳元の声が――絶対に壁に近寄らなかった、千穂先輩に似ていたかもしれないなんて、きっと。
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